箱根駅伝はどれほど高速化したのか?【往路編】

箱根駅伝データ分析

正月の風物詩である箱根駅伝。

正月の風物詩である 箱根駅伝。第102回大会も往路復路ともに区間新が出て、大会記録も更新されました。
近年は毎年のように「高速化した」という声を多く聞くようになりました。

しかし、その“高速化”は

  • 本当に全区間で起きているのか

  • それとも特定の区間だけなのか

  • トップ層だけの話なのか

こうした点について、具体的なデータで語られることは意外と少ないと思います。

本記事では、往路1区〜5区について、区間記録・区間賞・区間10位・区間最下位 の推移を折れ線グラフで可視化し、箱根駅伝の高速化が「どこで」「どの層に」起きているのかを見ていきたいと思います。

グラフの見方

本記事で使用するグラフは以下の4指標で構成しています。

  • 区間記録(点線):その区間の歴代最速水準

  • 区間賞:トップランナーの到達点

  • 区間10位:上位校の平均的水準

  • 区間最下位:区間全体の底(ばらつきの指標)

「速くなったか」だけでなく、どの層が押し上がったのかを見ることを目的としています。

1区|劇的な変化はないが、確実な「質の向上」

1区は箱根駅伝の中でも、スタート直後という特性から集団走になりやすい区間です。

グラフを見ると、区間賞のタイムは大会ごとの展開によって上下しており、2区ほど明確な高速化は見られません。
これは大会によって駆け引きやエントリーメンバーによりスローペースで進むのか、ハイペースで進むのか異なるのが要因と考えられます。

しかし注目すべきは、全体のタイムが、長期的に見て確実に短縮している点です。
特に、区間賞を取るには1時間0分台、1時間1分台で走破することが必須になってきています。

これは、

  • 以前ほど極端に遅れる選手がいなくなった

  • 1区に配置される選手の最低ラインが引き上げられている

ことを意味しています。

かつての1区は「様子見」「無理をしない」区間でしたが、現在では一定以上のスピードを維持しつつ、先頭とのタイム差をいかに少なくするかが前提条件になりつつあります。

2区|箱根駅伝の高速化を最も象徴する区間

2区のグラフは、今回の往路分析の中で最も分かりやすく高速化が表れている区間と言ってよいかと思います。

区間賞・区間10位ともに、多少の凸凹はあるものの、強い向かい風を受けた第89回を除き明確な右肩下がりの傾向が見られ、特に近年は上位を狙う場合は1時間5分台から1時間6分台前半が当たり前の水準になっています。
一昔前は1時間7分台で走破すれば区間賞を狙えましたが、ここ数年では1時間7分台では順位を落としてしまうほどになっています。

さらに重要なのは、区間最下位のタイムも徐々に改善している点です。

これは、

  • エース区間での勝負を避けない戦略

  • 中位校・下位校でも2区に力を入れる流れ
    が定着した結果と考えられます。

2区はもはや「一部の強豪校だけの勝負区間」ではなく、全体のレベル向上を最も反映する区間になっています。

3区|ばらつきが減り、安定した高速化が進行

3区は海沿いを走る区間で、風向きや気象条件の影響を受けやすい区間でもあります。

そのため過去には、大会ごとのタイム差が大きく、安定しない区間という印象も強い区間でした。
一昔前は前半は下り基調で後半は平坦なコースであることから「つなぎ区間」と呼ばれ、下級生や9番目~10番目の選手が配置されたりもしました。

しかし近年のグラフを見ると、区間賞・区間10位・最下位ともに上下動が小さくなり、全体として安定して速くなっていることが分かります。
特に区間最下位の改善は顕著で、「3区で大きく流れを壊す」ケースが減っています。

これは、「2区の流れを確実につなぐ走力が求められる」区間へと役割が明確化してきた結果とも言えます。
また、2区で多少順位を落とした大学は、往路の後半区間へ向けて流れを立て直したいため、チームでも上位の実力を持つ選手を惜しみなく起用していることが、タイムに表れていると思います。

4区|中位層の底上げが最も見える区間

※現コースとなった第93回大会以降のデータとしています。
第93回大会時点での区間記録は第81回大会以前の同一コースの区間記録である
1時間56秒(第75回大会 駒澤大学 藤田敦史氏)としています。

4区の特徴は、区間賞よりも区間10位・最下位の高速化がはっきりしている点にあります。

以前から4区は、「準エース区間」と呼ばれ、2区で起用されてもおかしくない選手が起用される区間となっています。特殊区間である山登りの5区が控えているため、少しでも良い位置で5区に襷を繋げるための走りが求められます。

グラフからは、

  • 中位層が安定して速くなっている

  • 極端に遅れる選手が減っている
    ことが読み取れます。

4区は、チーム全体の完成度や層の厚さが如実に表れる区間になっており、高速化もさることながら「失速しない区間」へ進化しています。

5区|高速化に加え、「安定化」が進んだ山上り

※現コースとなった第93回大会以降のデータとしています。
第93回大会時点での区間記録は第81回大会以前の同一コースの区間記録である
1時間9分12秒(第81回大会 順天堂大学 今井正人氏)としています。

山上りの5区は、他の区間とは性質が大きく異なります。

区間賞のタイムも年々高速化していますが、区間10位のタイムの高速化傾向が顕著に表れています。
全体的に見ても、タイムのばらつきが徐々に小さくなっていることが分かります。

これは、

  • 山専用選手の育成

  • 明確な5区要員の固定
    が進み、「致命的に遅れるリスク」を各校が減らしてきた結果かと考えられます。

特に5区は特殊区間という性質上、差がつきやすいう上に順位変動も激しいため、優勝候補の大学もシード権を狙う大学も大幅な遅れを避けたいため、確実に各校の目標タイムで走破できる選手を起用していることが大きいでしょう。

5区では「速くなった」ことはもとより、「崩れなくなった」こと自体が大きな進化と言えるでしょう。

往路まとめ

往路1区〜5区を区間別に見てきましたが、箱根駅伝の高速化は単純な記録更新ではなく、区間ごとに異なる形で進んでいることが分かります。

まず1区では、区間賞のタイムに劇的な変化は見られないものの、区間10位や最下位のタイムが着実に短縮しています。
これは、スタート区間に求められる役割が「様子見」から「一定以上のスピードを維持する区間」へ変化してきたことを示しています。

2区では、トップ層が牽引する形で最も分かりやすい高速化が起きており、
箱根駅伝全体のレベルアップを象徴する区間となっています。

3区・4区では、区間10位・最下位の改善が顕著で、中位層の底上げが進んでいることが確認できました。これは、往路全体を通して「大きく崩れない走力」が重視されるようになった結果と言えるでしょう。

5区では、他区間のような単純な高速化ではなく、山専用対策の進展により
区間全体の安定性が大きく向上していることが分かります。

これらを総合すると、箱根駅伝の往路における高速化とは、一部のスター選手による記録更新だけでなく、全区間・全層にわたる“質の底上げ”であることが分かります。

次回は復路編として、下り・平地・終盤区間で同様の分析を行い、
往路と復路で高速化の性質がどう違うのかを検証していきたいと思います。

データについて

本記事で使用している箱根駅伝の区間記録データは、日本テレビが運営する箱根駅伝公式サイトに掲載されている過去大会の公式記録を参照し、独自に集計・可視化したものです。記録の解釈および分析は筆者によるものであり、公式見解を示すものではありません。

日本テレビ | 箱根駅伝

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